[小説 時] [141 温泉] |
141 温泉
それまで何度となく繰り返された話が、呂律の怪しい口から吐き出された。男は、しきりに、今度の選挙には是非協力して欲しい、決して悪いようにはしない、・・・そう言いながら盃を自らの口に運んだ。口だけが休みなく動いていた。もう既に、自分の前に座っている男がどんな男なのかさえ、認識できない様子だった。恐らく、盃に酒が満たされる度に繰り返した話なのだろう、そして、今の自分自身を支えることができるのは、その話だけだと云うことを知っていたに違いない、・・・暫くすると、話は同じところへ戻ってきた。 傍にいた後輩に銚子を渡して、煙草の煙の充満した部屋を出た。眩暈がした。 もう酔っているのか? ええ。年末から毎日のように宴会続きらしいですからね、無理もないと思いますよ。 少し休ませたらどうだ? そう言ったんですが、・・・。 こんな調子じゃ、最後まで持たないだろう。 それもそうだ。・・・明日もあることだし、今日は早目に切り上げた方が良さそうだな。 温泉で一風呂浴びて、ゆっくり休んで貰うと云うのはどうですか? 温泉?・・・何だ? それも良いな。温泉なら俺も付き合うよ。・・・これから頼めるか? 大丈夫だと思います。 お湯に浸かって、少しは身体を休めようと云う訳ですよ。 -Dec/20/1998-
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