[小説 時] [80 説得] |
80 説得
仰ることは良く解ります。説明を聞いて、それが充分に納得できるものであれば、考えられないことでもないんだ。・・・はっきりとした理由もなく、何時までも待つ訳にはいかんよ。 まだ遣り残していることがあります。それを片付けたい。全てが済んで、改めてお願いに上がります。それまで、待って戴けないでしょうか? 遣り残していることとは、どう云うことだ? これまで経緯をご存じなら、ご理解戴けるだろうと思っていました。 その台詞はさっきも聞いたが、どう云うことか、さっぱり分からんね。 いえ。どうして事情を説明できないのかも含めて、間違いなくご存じの筈です。 それじゃ質問の答えになっていない。一度、はっきり言ってみたらどうだ?・・・良いかね。他人を説得したければ、誠意を以って応えることだ。例え筋の通らない話でも、それだけで説得できることもある。だが、君には二つとも欠けている。・・・これ以上話を続けるのは時間の無駄だな。 真面な説明ができないことに就いてはお詫びします。ですが、結果を見るまでは、どうしても待って戴きたいんです。・・・その上での結論であれば、それがどんなものであっても、・・・受け入れる心算です。 もう少し話の解る男だと思ってたがな。残念だ。 せめて、この正月まで、・・・。 二度なら聞ける話も、三度は無理だ。 それが、最善の選択をするための、最少限の時間です。 そうか、・・・。どうしても聞かせては貰えないか。・・・分かった。約束はできんが、待てるだけは待ってみよう。 ありがとうございます。 礼を言われるようなことをする心算はない。・・・これで君も只の男だと云うことを、良く覚えておきなさい。 分かりました。できるだけ早く、もう一度此処へ参ります。 頑固な男だな、君も。・・・親父さんにそっくりだ。 光栄なことだと思っています。 小さい頃は、なかなか素直で良い子だったんだが、・・・。 柵が増えましたので、・・・。 そうだな。・・・だが、柵は知らない間にできてしまうと云ったものじゃない。自分がそれを必要としている時に、自分自身が作るものだ。それに気付かずにいることの方が、むしろ多いのかもしれないがね。・・・新しい柵を作る前に古いものを片付けるとか、せめて、いざと云う時には人一人潜り抜けられる程度の余地は用意しておくとか、・・・お互いの今後の課題だろうな。 良く考えてみます。 それが良い。 -Dec/18/1997-
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