[小説 時] [69 手形] |
69 手形
一年祭は何事もなく済んだ。その年、雨の少ない梅雨が終わって、初夏の穏やかな暑さを経験することもなく、夏はすぐにやって来た。夏になれば、橋の上からは、水遊びをする子供達や、釣糸を垂れる人や、投網を打つ人達が見える筈だった。しかし、何時もなら、荒々しい水の流れを見ることができる川には、細々とした流れがあるだけで、魚が住める程の水量もなかった。 季節のけじめがはっきりしない年は、何かにつけて不安だった。 事実、一年が過ぎても、期待していたことは何も起こらなかった。・・・いや、起こる筈がないことは始めから分かっていた。一年は、彼等に与えられた時間ではなく、自分自身が必要としていた時間だった。だが、自ら望んだ時間だったにも拘らず、それは惨憺たるものだった。まだ経験したことのない不安があった。 自ら振り出した手形の期日が迫っていた。
どうするの? -Nov/15/1997-
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